昨日、秋晴れを狙い奥多摩の1000メートルオーバー峰への
山ランを試みた。その翌日お送りするこれはそのレポート。

ま、例によってガス欠になるまで攻め込んできたので当日である
昨日はレポートする気にもなれず帰宅⇒そくダウン
今回の計画ルートはこれ。



高水山の先に踏み込み、日向沢の峰から川苔山を通り奥多摩駅に下りる。
水平移動距離で31キロ、標高は最高で1300メートルを超える。

所要時間の予定は7〜8時間を見込んだので日没までにはこなせる?
という目論見のもと出動することにした。

スタートはいつも通りの青梅鉄道公園。ここまでの6キロはセブンで移動。

ここをスタートするのは3回目になるので、落ち着いてマイペースで走る。



(*今回からクリックすれば写真を大きく表示するようにしましたよ)

雷電山から榎峠に向かう最初のドロップがこれ。急でしょう?

でもハイカー用にザイルが張ってあるので安全ではある。



榎峠の都道に出る直前の下りは木組みの階段が続く。



前回は発見できなかった高水山への入り口は、あろうことか道路をはさんで
向いにあった。

こんなにわかりやすくなっているのに・・・



ここから登っていく。

ちなみにここまで1時間45分。前回よりも45分も短縮している。

しかも脚は元気一杯、まだまだいける。



強烈に上る。。。



まだ上る。。。延々と続く階段がわかる?



急に空が広がる。ここは見晴し広場と名付けられたポイント。



多摩川対岸の御岳や高尾、大岳がくっきりと見える。

富士山は残念なことに山陰に入ってしまって見えない。。。



これから向かう高水山を望む。

いろいろな人のレポートによれば、ここから10分程度で"なちゃぎり林道"
に合流するらしく、すぐかなと思っていたのだが、どうしてどうして・・・
そこそこのピークを2つ上って、やっと合流だった。



林道はゆるやかな上り坂が続く。ここもマイペースで走って上る。

ほどなく常福院への入り口を左に上る。



梢から差し込む陽の光が神々しい。

お参りをし、高水山頂へ向かう。



ここまで2時間45分。。。榎峠から1時間は予想外だ。

みんなここを30分で上り、15分で下るらしいのだが、今の僕には

”どうかしている”

としか思えない。



紅葉はまだ完全に下りてきていないようで、緑との絶妙の色合いが美しい。

さあ、いざ未踏の領域へ!!

現在時刻13:30。

日没の16:30までに残りを回ることが出来るだろうか?

まあ行くだけ行ってみよう。



道は落ち葉が絨毯のようになっていて走りやすい。

ほどなく岩茸石山のピークに到着。



ここで久しぶりに人間に会う。

おじさんが一人、景色に向かって「残念だ・・・」と言いながらビールを
飲んでいた。

こんなところまできて残念がっている彼の背中に「アディオス・・・」と
つぶやき、僕は次に目指す頂を見つめた。



岩茸石山頂から、これから向かう黒山と棒ノ峰を望む。

この山頂で御嶽駅へ下りる道と黒山へ向かう道が分岐する。

が僕が向かうルート、つまり黒山へ向かう道の入り口は

「パッと見ただの崖、しかも岩ごつごつ」

だった。ちょっと下りてみないとそこが道なのかわからない。
そんな道というより自然の岩が階段を成しているところを下りていく。

せっかくここまで上ってきたのに、ここでかなり下る。

下りきり落ち葉でいっぱいのシングルトラックを走りながら思った。

「人が入った形跡がナッシング!」

そう、岩茸石山まではそこそこ整備された林道が続いていて、ハイキング
気分でいられたのだが、そこから先の山はまるで様相を異にしていた。

僕は軽く後悔した。

「装備が軽すぎる・・・」

いつものロングラン装備なのだが、そんなものではどうにもならない雰囲気
が行く手には充満している。

走れる部分も一気に減り、ルートの大半は歩くのがやっとの上りor下り
である。

その険しさを増す山道は、進めども進めども距離を稼げず、たかだか1キロが
30分もかかるようになってきていた。

「黒山のピークをとったら考えよう。。」

途中、倒木の中から手ごろなものを2本チョイスしてストックの代用とする。

もうストックに頼らないと上りもきついし下りも厳しくなってきていた。

それでも下りで1度滑落してしまった。

「こんな場所でまじシャレにならん・・・」



心細さもあり弱気を増していたところに突然に景色が開けた。

すごい・・・



はるか下に人里らしきものが見える。

時計は15:00になろうとしている。



たまに尾根伝いにフラットに近い部分があり、こんな感じ。

だが気持ちよく走っていくとその先には必ず強烈な上り坂or下り坂がある。
しかも上りはロッククライミング要素も混ざるようになってきている。

「だめだ・・・黒山で山を下りよう・・・」

さっき見た感じでは人里までざっと標高差500メートルはある。
しかもその人里も”かなりの山奥”。どの駅になるか見当もつかないが、
青梅線の駅までも結構な距離があることは間違いない。

「脚がもたない・・・そして次で下山しても日没ギリギリになる。」

加えて装備不足、ライトもなければ防寒具もない・・・・

ギザやばす・・・

だが僕は黒山山頂でショッキングな事実を知ることになる。



ようやっと着いた黒山山頂。

見晴らしナッシングのここ、下山ルートもナッシング・・・

名栗側へ下りるルートがあるにはあるが、そっちに下りてはその先が困る。

「よし、あと1.2キロがんばって棒ノ峰まで行こう!」

1.2キロなんてほんのちょっとじゃん、平地なら。

僕は棒ノ峰まで行けば下山ルートがあることに賭けた。

山道を歩きながら僕は考えていた。

そもそも棒ノ峰で下りることは想定していなかったのだが、途中で離脱する
可能性も考えて何通りかのルートを用意しておかなかったのはミスだ。
事実、次の棒ノ峰のピークで下山できる確証もない。

ここ何回かの山ランで、峠道はこんなもんだろうと思い込んでいたこともある。
だがさっきも書いたが実際の山の姿は決してランニングの延長ではなく、
ある領域から先は間違いなく「登山」としか言いようがないものになった。

途中撤退・・・

当初予定していたルートよりも手前で下山することになる。

よく”勇気ある撤退”とか”引き返す勇気”とか言うけれど・・・

勇気なんて必要なのかな・・・かなり疑問に思った。

天候や体調が悪くなったり、限界が見えたら引き返すなり下りるだけ。
その際に、どの時点で、またはどのレベルで下りる判断をするかはとても
難しいものがあるけれど・・・・

でも、いざその局面になった時に必要なのは「冷静な判断」であって、勇気
などではないんじゃないのかな。

極論なのかもしれないけれど、勇気など持つ必要などなくて、冷静に状況を
見極めて判断できる力を日ごろ養っておくことが大事なんじゃないのかな。

でもでも「撤退する勇気」って言うじゃん?

なんで?

こだわり? 執着?

何か引くに引けない事情があったり、感情が絡んで判断する目が曇ったり
してしまう。

頭では下りるほうが安全って理解できているのに、あえて先に進みたいという

欲求

が強い状態ってやつなのか。

こういう場合って欲求が理解を上回ってしまい、とても危ないような気がする。

固執、執着するあまり撤退する判断ができないってのは、遭難と背中合わせ
といっても良いのかもしれない。。。

今たまたま山の中でこんなことを考えているけれど、実社会でも同じだよね。

「これ以上はまずい!」って感覚。

これは大事にしたほうが良いよ。

そう感じるってことは必ず何かあるからさ。

そこで「まいっか」で済ませると後々になってから

「嗚呼・・・あの時に・・・あそこで考えていればよかった・・・」

ってことになりがちである。

やはり必要なのは勇気などではなく、冷静な判断力だわな。

冷静に判断して導き出された答えは、受け入れ難いほどに格好の悪いものかもしれない。

でも、生き延びることを優先したら格好なんて関係ないよね?

「勇気ある撤退」などという言葉は、格好悪い結果を選択せざるを得ない状況下での
受け入れ難い気持ちを慰めるための自己満足ワードでしかないのかもしれないね・・・

美しくもないことやどこをどうひっくり返して考えても格好悪いことをさ、
美化して言いたいってやつじゃん?

気持ちはわかるけどな・・・

でも絶体絶命が目の前に横たわる局面では迷惑でしかないわな・・・

かえって格好悪くて笑えねえ。

そもそも撤退=退くの判断レベルを勇気で計るということ自体が論理的ではない。

また撤退というネガティブワードを勇気というポジティブワードで修飾している
点もこの言葉の不自然さをよく表している。

語源は知らないが、混乱した精神状態から発せられた感情的な言葉なのかもしれないね。



あと500メートル。しかしこの階段、300段以上あった。



棒ノ峰!!

969メートルかぁ!

あと31メートル・・・・頭上すぐのところに1000メートルがある。

しかしここまで上がるとホラ!



空の色が違うんだよ。

青が濃いんだ。

宇宙と地上の境界よりも宇宙側にいるってことがよくわかる。

さて、下山するぞ。

15:30 now!

この標識に出ている「百軒茶屋」ってのが人里なのか?

もし行ってみて”百軒茶屋という名の峠”だったりしたら、

たぶん声を出して泣くと思う。

そしてそこは日没後の真っ暗な山中だ。

でも方角は合っているので行ってみよう。



今日これまでで一番のドロップが続く。

さっき拾ってきたストック棒×2本とはここでおわかれする。

ここからは日没との競争になる。

なんとしても日が落ちる前にこの森を脱出しなければならない。

幸いここまで上り中心だったせいか、下り用の脚は残っていた。

問題はその脚がもつかどうかだ。

それにしてもこの傾斜は常軌を逸している。自分が野生の生き物であると
思い込まなければとてもじゃないが下りれたものではない。ましてや逆方向
に上るなんて勘弁してもらいたい。

しばらく下りると沢の音が聞こえてきた。

稜線をひたすら来たせいか久々の水の音に心が躍った。

底まで下りきるとそこは天然の沢を利用した「山葵田」だった。

*画像は私有の畑であることも考えられるためなし

そこから下っても下ってもずっと山葵田が続く。

ちょっと凄い。

ここの山葵で蕎麦が食べたい・・・きっと期待を裏切らない。



でようやく下山してキャンプ場らしきところに出た!!

助かった・・・

*ここでカメラのバッテリーがEmptyする。

棒ノ峰山頂からここまで水平移動距離1.0キロ。
その間を標高にして558メートルも下りてきた。

少し舗装路を行くと「百軒茶屋」という看板と・・・

自販機じゃーん!!

「やったー!冷たい飲み物が買えるよー!」

とリアルに声に出しながら駆けてしまった。

自販機前で小銭入れをジャラジャラさせていたら、お店からオバチャンが

「あら?電気切っちまったわ。」

「い、いえ。どうしても飲みたいってわけでもないので・・・」

と言ってみたものの、やったとか騒ぎながら走ってきたやつでは説得力なさすぎ(笑)

結局ご好意に甘えて冷たいお茶を買わせていただきました。あざす!

登山という装いからは程遠い、細身のスパッツに薄っぺらのランバッグを背負った
僕のイデタチはかなり斬新だったらしく、

「走ってきたのかい?」

という質問からしばし会話に花が咲く。

頭上はるか上には、1時間前に極めた棒ノ峰の頂が西日に黄色く輝いている。

「今年は遭難が多くてね・・・」

オバチャンの話では、ここから奥で何かあると救急車ではどうにもならなくて
ヘリコプターで吊り上げるしかないそうだ。

「春にも60位の方が頂上で倒れちゃってねぇ、この辺にも救急車やら何やら
が沢山きたけれども、ほら、いるのはあそこでしょ?ね、どうにもならんよね。」

お茶屋さんは「山番」も兼ねるとのこと。例えばこの時間から山に入ろうと
する人もいるらしく、そんな人の装備を確かめたりもするんだそうだ。
明らかに装備不足の時には絶対に山に入れないんだって。

そりゃそうだ。今下りてきたばかりだからよっくわかる。

暗くなってから装備もせずにあそこを上るなんて、人の所業ではない。

「ま、下りてきちゃえばあとはここまっすぐで駅だからね。がんばんなさい。」

と応援をいただき茶屋を後に一路、駅へ!!

舗装路だけど緩〜く下りが続くので、マイペースで走って下る。

もう登らなくても良いという安堵感に包まれながらのランは、
表現するには適当な言葉がみつからない。

なんか幸せを感じた。

そんな僕は今さらだが阿呆だと思う。

途中でバス停があったが、バスが来るのは1時間以上も先なので
走る。

ちなみにどの駅に出るのかなぁ・・・

正面に御岳山の陰影が見えるから御嶽駅かな?

なんてことを考えながらチリンチリーン♪と熊鈴を鳴らしながら
ひたすら走る・・・

この駅までの道、結構あった。あとで計ったら5.02キロ。

なんのかんのと無事に駅(川井という駅だった)に到着し、電車を待つ間、
ランバックの中でペシャンコになったおにぎりを自販機で買ったコーラで
流し込んだ。

完全に暗くなった空に、これから先は自分の世界であることを誇示するかのように
満月が昇ってきていた。